父親の施設へ。10時。
前回に引き続き、父親の記憶がかなり曖昧な気がする。
自分のいる施設の名前が出てこない。
「ずいぶん長い事ここにいる気がする」と言っているので、異常な痴ほうというより年相応。
水の中の固い泥人形がだんだんと崩れ落ちていっている感じ。
年が明ければ91なのだから仕方がない。
「田鶴子さんは最初、双子の男の子を産んで、死んでしまって、でもその子供は僕の子でないような気がするんだ」
衝撃の発言。
「田鶴子さんはあの頃男の人と付き合いがあって、とても荒れていて」
「たかちゃんが死んだあと、おばあちゃんは僕とたかちゃんの奥さんを結婚させようとしていて」
「でも僕は田鶴子さんがかわいそうになって。好きで好きで堪らないというわけではなかったのだけれど」
うーん。田鶴子さんは孤児。出自がまるで分らない。
それは貧しい家の出身とかよりも、ずっとリスクが大きいと思う。
大好きならばともかく、かわいそうで結婚するだろうか。
「ジャスミンちゃんもたくちゃんも、ぱっと見たところがまともそうで。そういう子供が生まれたのは本当に運が良かったのだよね。今から思うと」
この台詞を二回繰り返していた。
冬の服を差し入れる。
私も20分ほど遅れて到着したのだけれど、施設の人が気を利かせてくれ、面会時間をあとにずらしてくれた。